1996 Autumn

 特集 九頭竜の秋 

山々は色鮮やかに、川には新しい生命が誕生する。
四季折々の自然が息づく川、九頭竜。
水は緑が深まり、ススキが川原を包むころ、
流域は、秋のふところに入る。
色づく季節、
どんな風景が見られるのだろうか。


産卵期を迎えた鮎が川を下ってくる
 九頭竜川の秋といえば、まず代表されるのが「落ち鮎」だ。いわゆる産卵期に入った鮎のことで、九頭竜川では毎年9月上旬からシーズンに入る。
 鮎は、解禁されて間もない6月から7月はまだ体長が20センチに満たないものが多いが、落ち鮎になると大きいもので27〜28センチ、平均でも20センチを超えるぐらいに成長するという。
 九頭竜川の流域で生まれ育ち、子供のころから鮎釣りに親しんできたという酒井賢一さん。職業は会社員だが、鮎釣りにかけてはこの道40年の、いわばプロ級の釣り師。
 「鮎は産卵が近づくと一旦下流に集まり、それから中流、上流へと遡上を開始します。砂地とか玉砂利があるところに産卵するんですが、近くに行くと鮎が水面を飛び跳ねる光景に出会うことがありますよ」
 落ち鮎の時期に入る9月〜10月は「ころがし漁」や「さぎり漁」といった漁法が解禁される。ころがし漁とは、釣り竿におもり1個ハリ12〜13本つけて、水の中をころがすように釣ることからこの名がついたそうだ。
 「友釣りと違って一度に何匹も釣れるから落ち鮎の時期に入らないと解禁されないんです。さぎり漁は、地元の漁師さんというか正確には中部漁協の組合員のみが申請して許可を得て行う漁法で、川の水面に杭を打ち、縄を張って取る漁法で、福井県内でも7カ所ぐらいしかないんですよ」

サケの遡上やモクズガニの産卵も始まる
 遡上ではないが、産卵のために九頭竜川の河口に下るのがモクズガニだ。10月の終わり頃が最盛期にあたる。
 九頭竜川の中流、鳴鹿堰堤(鳴鹿橋)の近くで、20年間にわたって操業を続ける漁師の鰐淵関蔵さんは、つぎのように説明する。
 「モクズガニは、海から上がって来るカニで地元では茹でて食べるのが一般的やね。下流の河口に箱(カゴ)をつくっておくと一回に平均30匹ぐらいはとれる。10月の終わりから11月のはじめが最盛期やろね」
 ちなみに、鳴鹿橋の上・下流域には40種余りの魚が生息しているとか。この中には、鮎はもちろん、初冬の産卵期になると見られる九頭竜川に欠かせない特有の魚、アラレガコ(アユカケ)などもいる。
 また、11月の声を聞くとサケの遡上もぼちぼち始まる。鰐淵さんによると、九頭竜川の下流、船橋新あたりでは毎年この時期になると、産卵を控えたたくさんのサケが見られるそうだ。

一年で一番美しく彩られる季節
 一方、流域の動植物などはどうなのだろうか。九頭竜川の鳴鹿橋から東古市一帯は、もともと河川と山地とが織りなす景観に特徴があり、貴重な植物が数多く棲息している。
 中でも絶滅危惧種の一つに選定されている秋の七草の一つフジバカマは、このあたりに見られる。生乾きのときに良い香りを発するそうで、目前に広がる紅葉を眺めながら、足もとの草花に思いを馳せるのも九頭竜の秋ならではの楽しみといえよう。
 上流域に足を運ぶと、だいたい10月初めごろから秋の深まりが高い山の頂上から少しずつ下に降りてきているのがよく分かる。
 和泉村では、この時期「紅葉まつり」が行われ、村内で生産される農林産物や特産物、民芸品などの展示会に県内外からたくさんの人が足を運ぶ。艶やかな紅葉と盛りだくさんの味覚、楽しいイベントなどで九頭竜の秋を満喫するのも趣があっていいものだ。
 さらに、近くの九頭竜湖は、水鳥たちの休息地として知られ、カイツブリ、オシドリ、カルガモ、コガモといったガン・カモ類が多く見られるという。湖の植生は、クリ、コナラ、ブナ林を中心に、マルバノキ、コウヤマキ、ハスノハイチゴなど、太平洋側に多い植物も入り込んでいる。
 幹線流路延長、実に116キロメートルに及ぶ九頭竜川。山岳、高原、渓谷美など自然の地形を備えたこの川は、秋から初冬にかけて一年で一番美しい彩りに包まれる。


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