夏祭りの余韻を楽しみながら川原で夕日を肴に酒を飲む。
夏から秋へ、松岡町は風流なひとときに包まれる。

九頭竜川の風物詩といえば「鮎」。アユ釣りのメッカ・松岡町が、ことしも全国からの釣人たちでにぎわいを見せた。アユの解禁で躍動する人、川、店、宿・・・。
今回は、アユの書き入れどきを迎えた九頭竜川の風景をクローズアップしよう。






 6月中旬、湿った梅雨空がカラリと晴れあがると、松岡町には県外からの車が目立ちはじめる。週末に迫ったアユの解禁にあわせて、釣人たちが川の様子をウォッチングにやってくるからだ。アユの漁業権を扱う「九頭竜川中部漁協」の電話も、この時期は朝からひっきりなしに鳴り響く。川の状況や天候を気にかける釣人たちの問い合わせである。
 愛知、岐阜、大阪、神戸、滋賀・・・・各地から九頭竜川へ足を運ぶ釣人にとって、地元漁協の生きた情報は欠かせない。
「去年の11月20日ごろの雲の動きがいいで、今年はいけるんじゃないかねえ」
 中部漁協副組合長の川村和作さんはそう言って目を細めた。
 「天然もののアユがたくさん釣れる」川として知られる九頭竜川。その中流にあたる松岡町は、アユ解禁の声を聞くとにわかに活気づく。とりわけ、全国からの釣人を迎える漁業関係者は、昨年秋から暮れにかけての天候を気にかけながら、今年の漁獲高を予測する。その年のアユの成長には、前年の雪どけ水、暴れ水(雨による大水)の量が大きく影響するからだ。水量が多かったり、川が濁ったりすると、産卵したアユの稚魚が死んだり、育ちにくくなるという。
 「〈雲さだめ〉と言うての。地元の漁師は毎年11月20日ごろの雲の動きに目を光らせる。雲が北から流れてくると、その年は雪があまり降らず、寒い日が続く。これが川にはいい。翌年はだいたいアユが豊漁になる。昨年は50年に一回ぐらいの豊漁じゃったねえ」
 川村さんによれば、九頭竜川のアユはここ3年ほどずっと豊漁続きだという。アユが育ちやすい天候と、水がきれいになっていることが要因だそうだ。アユ以外にもワギス、ゴリ、アカベコなど、かつて生息していた他の川魚たちも少しずつ戻ってきている。




 一般の釣り客を対象にしたアユの解禁は、2002年は6月15日。それに先立ち、4月の終わりから5月の中旬にかけて稚アユの放流が行われる。中部漁協によれば「今年だけで15トンの稚アユを放流した」という。場所は、九頭竜川の五松橋、中島大橋付近など17箇所。わずか、6、7センチの稚アユが、夏の盛りになると20〜24、5センチぐらいに成長する。
 解禁の一週間くらい前になると、漁協の漁師さんたちが「試し釣り」をしてその稚アユたちの成長を確かめるのだ。「うん、いまの時期にしては大きいのお。九頭竜川のアユは、流れがきついから身がしまっとるんや」
 そういいながら釣り糸を垂れる川村さんは、組合員でありながら「友釣り64年」のキャリアをもつ。中部漁協きっての名人で、一番多いときで「一日230匹を釣り上げた」実績があるそうだ。
 「風の向きによって川底が見えるときはあまり良くない。川底が見えるとアユが警戒するからね。九頭竜の風は、とくに川下から風が流れが変わる朝の9時から10時ころやなあ」
 試し釣りとはいえ、ほぼ5分おきぐらいに釣り上げる。まさに名人ならではの腕前をみせられつつ、含蓄ある物言いに周囲は感心することしきりである。




 松岡町でこの時期に書き入れ時を迎えるのは、釣人や漁協関係者だけではない。中部漁協に負けず劣らず、釣人たちの情報源であり、交流の場にもなっている「木下釣具店」(松岡町薬師)もそのひとつである。
 店を切り盛りする女主人、木下清美さんは、知る人ぞ知る名物おばさん。釣りのメッカとして親しまれてきたまちの歴史、釣具の移り変わり、どんな釣人が、どこから、いつごろやってくるかなどを即座に答える。加えて、川の状態や釣りのポイント、アユの育ち具合など、漁師顔負けの<情報ツウ>でもある。まさに、釣人たちの<生き字引>ともいえる存在なのだ。
 「情報ツウだなんていわれても、お店にきた人としゃべっているだけだよ。昭和44年に嫁いでからもう30年以上だわね。長くやってるとさ、いろいろ情報が入るものなのよ。どこで何匹釣れたとか、どこが穴場だとか・・・・・毎年来る常連さんもいれば、何年ぶりかで会うお客さんもいます。シーズンが近づくと電話がかかったり、解禁になれば必ずお店に顔を出してくれるのが嬉しいわねえ。」
 木下さんによれば、松岡町に全国から釣人がやってくるようになったのは、北陸自動車道が開通してからだという。それまでは車で来る人も少なく、宅配便なども整備されていないことから、関西や中京方面の釣人たちは当時、釣具などの荷物を汽車で松岡駅まで送ったそうだ。木下さんは、その荷物をわざわざ駅まで取りに行って数日後に到着する客を出迎えたという。
 「釣り竿だって昔は竹竿。それがグラスファイバーに代わり、やがてウェットスーツになり、何時間でも水の中に浸かっていられるようになって、ずいぶん人が増えましたよね」
 松岡町を訪れる釣人の中には<アユ界のタイガー・ウッズ>の異名をとる若干22歳の若手名人のほか、近年は親子連れ、夫婦や女性の釣人も目立つという。そんな釣人たちの、良き話し相手であり、情報源が木下さんなのだ。


 それにしても年々釣り客が増加の一途をたどるという九頭竜川の魅力とは、そもそもどこにあるのだろうか。
 7月のある夏の昼下がり、五松橋付近で「名古屋から5、6年ぶりに九頭竜川にやってきた」という二人の釣人に声をかけた。
「アユ釣りの魅力?やっぱり友釣りだね。おとりアユをうまく泳がせて針にかかったときの手ごたえはなんともいえないねえ」
「今日は全然、釣果はあがらなかった」といいながら、見せてくれた引き舟の中をのぞくと20センチ級のアユが数匹。「九頭竜川は川が大きくて、水がきれいで、アユも多い。わたしら釣人にとっては一種の憧れの川だね。いつまでも清流のままであってほしいですよ」
 一方、中島橋付近では、15人の団体でマイクロバスを駆って愛知県豊田市からやってきたという釣人に話しかけた。
「九頭竜川は、量がたくさん釣れると聞いてやってきたんです。まだ着いたばっかりだからわからんけど、長良川よりはいいんと違う?」
「一度やったらやめられない。それが友釣りの魅力」釣人たちは一様に口をそろえる。それほどまでに人をトリコにする「友釣り」とはどういうものを言うのか。
 アユ釣り方には、友釣り、ドブ釣り、掛け釣り、餌釣りなどがある。九頭竜川ではほとんどが友釣りである。アユは川石についた珪藻類を餌にしているが、自分の縄張りをもち、その範囲内にほかのアユが近づくと排除しようとする闘争本能をもっている。この習性を利用したのが友釣りだ。釣人は「おとりアユ」を使って、縄張りをもつアユのところに竿をやや斜めにして、川の上流に向かってゆっくりと動かす。
 おとりアユの鼻孔に鼻環を通し、尾の後方1〜2センチのところに掛け針をつけておく。縄張りを持ったアユは、このおとりアユに体当たりをするように攻撃した拍子に、掛け針にひっかかって釣られるという寸法である。
 おとりアユが元気なほど食いつきがいいといわれ、釣りあげるたびにおとりアユを入れ替え、アユの集まりそうな石を狙うのがコツだという。





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